小堀 裕己こぼり ひろみ

高校の物理で学びますが、電子は電気素量を e とすると「 − e の電荷を持った粒子」です。
大学で量子力学を学ぶと、電子は − e を持った荷電粒子であるばかりでなく、「電子自身が磁石である」ことが分かります。
「電子自身が磁石である」ことは、左下の図のように「電荷を持った電子が自転」していて、その結果、環状電流が発生し、
「電磁石のごとく振る舞う」というのが良く使われる一般向けの説明です。
厳密にいうと、この解釈は間違っていますが、直感的には分かりやすいので多用されます。
歴史的な経緯で、「電子の磁石としての性質」を「回転」を意味する「スピン」という名前が付けられています。
エレクトロニクスは、主に電子の電荷を用いた電気的な性質を利用していますが、
さらに「電子の磁石としての性質」を積極的に利用しようとする分野が「スピンエレクトロニクス」です。
これは、スピン+エレクトロニクスの造語です。
スピンエレクトロニクスは、言葉が長いので「スピントロニクス」とも呼ばれています。
スピンエレクトロニクスのデバイス開発で、先ず、問題となるのは、「デバイスの材料」に何を用いるかです。
もちろん、デバイスの材料が決められ、その材料を用いてデバイス性能をどのようにして向上させるかも大切な工程です。
しかし、デバイスの材料がどのような「物質の性質(物性)」を持っているかを理解しないでデバイス開発を進めることはできません。
スピンエレクトロニクスに用いる「材料の高機能性」が分かれば、その後は、その高機能性が活かされるようにして、デバイス開発するのが次のステップになります。
これは、家屋の建築に例えるならば、「建築材料」に何を用いるかに対応しています。建築材料の品質を下げると、住みにくいばかりでなく、「省エネ、耐震性能など」色々な問題が発生します。
この材料を用いると、「スピンエレクトロニクス・デバイスとしてこのような高機能化が期待されるよね」というように、夢が広がります。
甲南大学 教員・研究者紹介
research map(学外サイト)
山崎 篤志やまさき あつし

電子物性研究室では日本を代表する研究施設である大型放射光施設SPring-8や実験室の装置により発生する真空紫外線や軟X線など広いエネルギー範囲の光を使って,近年新たに創成された物質の電子状態を調べ,その物質で観測されている特異な現象の起源を明らかにしています.電子状態というのはあまり日常生活では馴染みがないもののように感じられますが,エレクトロニクスやIT技術が現代社会になくてはならないものになった今,電子は皆さんが恩恵を受けてる多くのものの性質を司っているのです.身の回りのものが金属であったり,半導体であったり,超伝導になったりというのは,すべてこの電子の状態に関係しています.
鉄や銅などの遷移金属や磁石に使われているサマリウムやネオジミウムといった希土類の性質はずいぶん昔から研究され,よく知られていました.今日これらの物質と他の元素をいろいろと組み合わせて非常に多くの新しい物質が産まれています.そのなかには,自然界では今までみられなかったような,電子が通常の何百倍も重くなる重い電子状態や,価数が大きく揺らいでいる価数揺動状態,全く新しい発現機構を持つ超伝導状態を示すものも多く含まれています.これらの物質では電子間のクーロン相互作用が非常に強いことが知られており,強相関物質と呼ばれています.また,同じ化合物でも大きさがナノ(100万分の1ミリ)・スケールになると,いままでにない特性を示すものもあります.
上に述べたような強相関物質やナノ物質の電子状態を光電子分光や吸収分光などと呼ばれる最先端の光を使った実験手法によって直接観測して,これらの物質の特異な現象の起源を明らかにすることが研究室のメインテーマのひとつです.
甲南大学 教員・研究者紹介
research map(学外サイト)
研究テーマの社会的重要性
現在,日常生活で目にする製品の中にはトンネル効果などの量子効果と呼ばれる電子特有の性質を利用したものが多々あります.最近では,電子の持つ「電荷」という自由度のほかにも「スピン」と呼ばれる電子の自転に関する自由度を使ったデバイスも登場してきています.このようにエレクトロニクスデバイスは物理なしにはとても語れるものではありません.私自身,磁性体をはじめとした物質が示す物理的な特性の起源をもっと掘り下げて研究したいと思い,企業を退職して大学院の博士過程に進学しました.その後は,未来のエレクトロニクス材料になると期待されるような強相関物質を中心に,シンクロトロン放射と呼ばれる過程で発生する放射光を用いてこれらの物質の電子状態を詳しく調べています.強相関物質では僅かな外部環境の変化によって非常に大きな特性の変化,すなわち電子状態の変化を起こすものがあります.これらは,電子が原子核の周りを公転するという最後の自由度「軌道」に関連した現象であったり,強相関物質の中の電子が持つ特有の性質に関連した現象であったりします.これらの物質が持つ独特な性質の起源を明らかにすることは,強相関物質をエレクトロニクス材料などへ応用する上でも,また今後様々な新しい物質が生み出されたときにみられるであろう特異な現象を理解する上でも極めて重要なのです.
電子物性研究室では基礎・応用の両方の視点から様々な強相関物質に注目して光電子分光など光を使った実験を行っています.アインシュタインの有名な光量子仮説により説明される光電効果を基本原理とする光電子分光測定はこれらの物質の特性のカギとなる電子状態を直接観測することが出来るとても強力な研究手法であり,理工学部という環境に適合した基礎から応用まで見通したような固体電子物性研究から材料科学研究まで行うことが出来ると考えています.
また,学生の皆さんには卒業研究や大学院での研究を通して様々な物質に触れ,最先端の物性物理・材料研究の現場を肌で感じるとともに研究を楽しみながら実践することで将来広い視野を持つ興味旺盛な人間に成長し,日本の科学技術分野を担う一員になってもらえるものと信じます.