スピンエレクトロニクス:試料作製装置、試料作製例、物性測定装置Apparatuses in Kobori Lab.
高周波マグネトロン・スパッタリング装置

主にナノサイズ膜厚の酸化物薄膜の作製に用います。
高周波マグネトロンスパッタリング法では、チャンバー内にアルゴンガスを微量流入させ、
高周波電圧を印加させることによってアルゴン原子をイオン化し、
磁石から発生する磁場を用いて効率的にアルゴンイオンを金属ターゲットに衝突させます。
ターゲットから飛び出たナノサイズの微粒子(ターゲットの物質からできている)は基板に堆積します。
流入させるガスはアルゴンガスである必要はありませんが、不活性ガスであるアルゴンガスはスパッタリング法ではよく用いられます。
我々の研究室では、酸化物薄膜を作製するときに、ターゲットは高純度金属を用います。
チャンバー内にアルゴンガスの他に酸素を流入させ、酸素流量をコントロールすることにより、酸素と高純度金属を反応させて酸化物薄膜を作製します(酸素反応性スパッタリング)。
ターゲットとして酸化物を用いると、一般に、純度を上げるにが難しいばかりでなく、高純度金属に比べて高コストになるので、酸素反応性スパッタリングはコストパフォーマンスが高い製作法と言えます。
急速熱処理還元用・赤外光ファネス

水素を用いた急速熱処理還元法により酸化物薄膜の化学式の酸素比を減少させます。
電気炉を用いると、1000℃以上に加熱するのにおよそ数時間かかりますが、赤外光ファネスを用いると、数分で1000℃以上に昇温させることが可能です。
赤外光ファネスを用いた熱処理での昇温、定温、降温の時間と温度の入力は、ノートパソコンにインストールされたアプリで行います。
昇温や降温に時間がかかりすぎると、本来希望する熱処理温度の効果が不明確になりますが、赤外光ファネスは昇温および降温時間が数分と短いので、より直接的に熱処理効果を調べる事ができます。
例えば、酸化鉄といっても、α-Fe2O3(ヘマタイト)、γ-Fe2O3(マグヘマイト)、Fe3O4(マグネタイト)のように幾つか種類があります。
α-Fe2O3は赤さび、Fe3O4は黒さびとして知られています。
酸素反応制スパッタリング法では、鉄(Fe)を酸素ガス(O2)過剰雰囲気中で反応させると酸素比の大きなα-Fe2O3が作製されます。
Fe3O4の作製は酸素流量を正確に適切な微少量に抑えて行う必要があるので、α-Fe2O3と比較して難しくなります。
したがって、酸素反応制スパッタリング法でα-Fe2O3を作製し、水素ガス雰囲気中で温度と時間の制御が容易な赤外光ファネスを用いて、結晶性などを自由にコントロールできる急速熱処理還元法は試料作製には適していると言えます。
酸素反応性スパッタリングと急速熱処理還元法を組み合わせた酸化物薄膜作製例

有機金属分解法(MOD法)を用いた酸化物薄膜の作製例

シリコニット・管状型高温電気炉

シリコニット発熱体を用いた管状型高温電気炉で、真空を始めとして、様々なガス(酸素、ヘリウム、窒素など)フロー中で熱処理を行う事ができます。 温度は1500℃までの高温で熱処理を行う事ができます。 ただし、昇温率(単位時間あたりの温度上昇率)をあまり高くすることができないというデメリットがあります。
カンタル・管状型電気炉

カンタル発熱体を用いた管状型電気炉で、真空を始めとして、様々なガス(水素、ヘリウム、窒素など)雰囲気中で熱処理を行う事ができます。 温度は1100℃までの比較的高温で熱処理を行う事ができます。シリコニット電気炉は1500℃まで昇温できますが、カンタル電気炉は1100℃であるので、シリコニット電気炉と比較すると最高到達温度は小さいですが、昇温率はシリコニット電気炉と比較して大きくすることができるというメリットがあります。
X線回折(XRD)装置( (株) リガク社製スマートラボ )

左上の写真は(株) リガク社製のX線回折装置スマートラボです。
試料の結晶構造や結晶性などを評価することができます。
試料を水平にしたまま台上に置いて測定することができるので、比較的大きな試料でも測定可能です。
スリットを交換するだけで、多結晶試料の測定を簡便に行 うことができます。スマートラボの特徴として以下が挙げられます。
1)集中法光学系、多結晶試料の高精度測定や薄膜試料の測定に適している
2)平行 ビーム光学系、ナノサイズの試料を測定できる
3)小角散乱光学系を切り換えて使用可能
右上の2つの図は、スマートラボを用いて、実際に得られたX線回折パターンです。
試料は、石英ガラス基板上に作製したLaMnO3、La0.7Sr0.3MnO3の薄膜です。
それぞれのピークに示してあるカッコ付の数字はミラー指数を表しています。
パターンから、薄膜試料が多結晶体であり、ペロブスカイト構造を持つことが分かります。
高倍率工業用偏光顕微鏡( 株式会社ニコン社製エクリプス )

左上の写真は株式会社ニコン社製の高倍率工業用偏光顕微鏡エクリプスです。
光学限界レベルの2000倍まで拡大して試料を観察することができます。
直線偏光、円偏光、明視野、暗視野測定が可能です。
複屈折を利用した結晶軸方向の違いなどを光学測定を用いて判別することも可能です。
上記の写真は、エクリプスを用いて、実際に得られた画像です。
試料は、LaMnO3バルク多結晶体で、数μm程度の粒状構造をしていることが分かります。
試料上の表面はミクロンサイズの高低差があるので、2000倍程の高倍率になると、焦点は試料表面上のある点(または領域)でしか合いません。
試料表面上のどの点にも焦点の合った写真を作るために、高さ方向に1μmずつ変化させて撮った数10枚の画像をエクリプスのアプリを用いて合成しています。
走査型プローブ顕微鏡(SPM)( セイコーインスツル株式会社製 )

左上の写真はセイコーインスツル株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(SPM)です。
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、先端を尖らせた探針(プローブ)を用いて薄膜の表面を観察する顕微鏡です。
探針を薄膜の表面に接触しないようにしてプローブを走査(スキャニング)することにより、薄膜の表面状態をナノサイズレベルで観察することができます。
上記の写真は、SPMを用いて、実際に得られた画像です。
試料はハーフメタルであるFe3O4薄膜で、数10nm程度の粒状構造をしていることが分かります。
探針に強磁性体を用いて観察しているので、薄膜の磁気分布を知ることができます。青がN極、赤がS極を表しています。
ダイヤモンド走査型触針式膜厚計、電極作製用マグネトロンスパッタリング装置

左上の写真は、ダイヤモンド針を用いた走査型触針式の薄膜用膜厚計です。
膜厚分解能は1nm程度です。水平方向からのずれ角を補正する機能が付いています。
薄膜のある部分とない部分から成る段差によって、薄膜の厚さを計測することができます。
右上の写真は、電極作製用マグネトロンスパッタリング装置です。
試料の電気および磁気伝導特性は、4端子法を用いて測定を行います。
試料上に4端子の電極を作製するときに用います。
電極材料は、金、白金、アルミニウム、銅などの金属を用います。
電気特性測定用・冷凍機システム

左上の写真は電気特性測定用・冷凍機システムです。 5K(−268℃)〜300K(27℃)までの温度範囲で、±0.01Kの誤差で電気特性測定を行うことができます。
4端子法を用いたI-V測定から抵抗率、誘電率、交流インピーダンスなどの電気的測定が可能です。
抵抗率測定とホール測定を組み合わせることにより、キャリアー密度と移動度を評価することができます。
右上図は、電気特性測定用・冷凍機システムを用いて測定したLaMnO3多結晶体の抵抗率の温度依存性です。
×印の点は、単結晶の抵抗率を表しています。LaMnO3単結晶はおよそ140K以下で反強磁性絶縁体になっています。
反強磁性体であるのでかなり強い磁場を加えない限り磁石にくっつくなどの磁性体としての性質は表れません。
また、絶縁体であるので、温度を下げて行くにつれて抵抗率は増加していきます。
グラフからわかるように、Heガスおよび真空雰囲気中で作製したLaMnO3多結晶体は絶縁体的な振る舞いをしていますが、酸素(O2)ガス雰囲気中で作製したLaMnO3多結晶体はおよそ200K以下の温度で金属的な振る舞いをしているのが分かります。
例えば、50Kでは、酸素(O2)ガス雰囲気中で作製したLaMnO3多結晶体の抵抗率は、Heガス雰囲気中で作製したLaMnO3多結晶体の抵抗率と比較して、実に1億分の1以下に減少しているのが分かります。
磁気特性測定用・冷凍機システム

左上の写真は磁気特性測定用・冷凍機システムです。 10K(−263℃)〜300K(27℃)までの温度範囲で、-0.7T 〜 +0.7Tの磁場範囲で磁気特性測定を行うことができます。 試料に対して任意の角度で磁場を加えることができます。 磁場を変化させたときの抵抗(磁気抵抗)やホール測定をすることが可能です。 磁気抵抗のピーク値から保磁力を評価することができます。 また、保磁力の温度依存性からキュリー温度(磁気転移温度)を評価できます。 右上図は、磁気特性測定用・冷凍機システムを用いて測定したLa0.7Sr0.3MnO3薄膜の磁気抵抗の温度依存性です。 横軸は磁場、縦軸は磁場による電気抵抗率の変化分を表しています。グラフから分かるように、磁気抵抗曲線にヒステリシス(履歴)が表れています。 すなわち、磁場を増加させていった場合の磁気抵抗曲線と磁場を減少させていった場合の磁気抵抗曲線が一致していません。 これは、La0.7Sr0.3MnO3薄膜が強磁性を示している事を意味しています。 さらに、スピン依存伝導モデルから、磁気抵抗の極大はLa0.7Sr0.3MnO3薄膜の保磁力を表しています。 磁気抵抗の温度依存性から、保磁力の温度依存性を求めることができます。 また、保磁力が0となる温度は強磁性から常磁性への磁気転移温度(キュリー温度)を意味しているので、保磁力の温度依存性から磁気転移温度(キュリー温度)を評価することができます。