研究紹介

 

・「もの」の性格は,電子が決める?

 みなさんの身の回りには,さまざまな「もの」があると思います.テレビや冷蔵庫,パソコンなどです.最近では,ここに挙げたもの以外にもほとんどの電化製品そして自動車や家にまで「電子」部品が使われているのはご存じだと思います.それでは,この「電子」とは一体なんでしょうか?わたしたち人間を含めてこの世に存在するすべてのものは原子から成り立っていますが,電子はその原子を構成するひとつの部品です.その役割は非常に重要で,もっとも有名な仕事は電気を運ぶということです.実際には,電子自身が電気を持っているので,電子が自由に動けさえすれば電気をはこぶことが出来ます.電子が大きな谷にはばまれて,または誰かに捕まって,電気を運べなかったらどうなるでしょうか?わたしたちのお気に入りのオーディオプレーヤから音がでなくなり,電灯は消えてしまい,電子レンジをつかって料理を温めることが出来なくなってしまいます.電子が自由に動ける「もの」をわたしたちは「金属」と呼びます.そして,谷にはばまれたり,誰かに捕まって動けなくなったものを「絶縁体」と呼ぶのです(電子の世界には,本当に谷があったり,捕まえる誰かが存在します!).電子部品には,電子のうごきを人間が制御しやすいようにした「半導体」が使われています.このように「もの」の大切な性質を電子が決めているのです.

 わたしの研究では,この電子をひとつひとつ取り出して,その正体を暴いていきます.これは光をあてて電子が飛び出してくる「光電効果」という原理をつかうため光電子分光と呼ばれています.ところが,電子もなかなか手強く,化けの皮をかぶったウソの情報を持つ電子(これらは「もの」の表面をうろついています)はとりだせても,その「もの」の性格を決めている真の電子は「もの」の奥に深く潜って,なかなか出てきてくれません.それでは,真の電子を取り出して「もの」の正体をみるためにはどうしたらよいでしょうか.それは,20世紀後半になってはじめて人間が手に入れた「放射光」という光を使えばよいのです.


・人が生み出した太陽の100億倍も明るい光

 多くの人にとって「放射光」という言葉は耳慣れないものだと思います.しかし,人類がつくりだしたこの光こそ物理学,化学,生物学,医学などあらゆる科学分野で今注目されているのです.その理由は,自然界に存在する光に比べて猛烈に明るい(まぶしい)ということです.太陽光に比べて100億倍も明るいのです.もちろん,無防備に人間が目で見たらただではすみません.このような強烈な光もちゃんと管理された環境で使えば,たいへん有用です.今まで時間をかけても暗くてなかなか見えにくかったものが,放射光を使うと明るいのでごく短時間のうちにスナップショットのように見えたりするからです.光電子分光では,X線という高いエネルギーを持つ放射光を使えば,物質の奥の方からその性質をきめている電子を取り出すことができるようになります.こうして,わたしたち人類は初めて物質の性質を支配している本当の電子を調べることが可能になったのです.


・「真の電子」がもたらすご利益とは?

 わたしの最近の研究では,ある物質の中にいる電子がまったく異なる2つの性格(いわば2重人格)をもっていることがわかりました.この物質は,21世紀になって発見されたスクッテルダイトとよばれる今までにない金属です.奇妙な金属であることは発見された時からわかっていましたが,電子を取り出してしらべることで,2重人格であることと,なぜそうなったのかというメカニズムまで明らかにすることができたのです.2重人格の電子というのは,それぞれの人格に適した仕事をさせれば,普通の電子よりも2倍(以上!?)も効率よく働く可能性があります.つまり,この物質はいろいろなところで役に立つかもしれません.このように物質の奥そこにいる真の電子を放射光を使った光電子分光により調べることで,新しい物質の性質を知り,それを応用することでわたしたちの身の回りの生活を豊かにすることが出来るようになるのです.



もし,この研究内容にすこしでも興味が湧いたら,

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